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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)1338号 判決

控訴人 小川ヨシ

右訴訟代理人弁護士 石原辰次郎

被控訴人 杉村勲

右訴訟代理人弁護士 田辺尚

被控訴人 嘉山俊子

右訴訟代理人弁護士 川原井常雄

堀江永

米川耕一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を次のとおり変更する。被控訴人らは連帯して控訴人に対し金四二七万七、五〇〇円及び内金四〇七万七、五〇〇円に対する昭和四九年八月一日から、内金二〇万円に対する同年一二月二三日から各支払いずみに至るまで年五分の割合いによる金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人嘉山俊子代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴人杉村勲代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の関係は、左記のとおり訂正、附加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

(控訴人の陳述)

被控訴人嘉山俊子の弁済の抗弁のうち、貸付番号3、9、10、11、15の各貸付金につき同被控訴人主張の金額の支払いを受けたこと、並びに貸付番号1の貸付金一〇万円につき二万五、〇〇〇円、同4の貸付金一〇万円につき五、〇〇〇円、同5の貸付金二〇万円につき一万円、同6の貸付金五〇万円につき七万五、〇〇〇円、同7の貸付金三〇万円につき六万円、同8の貸付金三五万円につき四万五、〇〇〇円、同12の貸付金二〇万円につき三万円、同16の貸付金一〇万円につき五、〇〇〇円の各支払いを受けたことは、いずれも、認める。

(証拠関係)《省略》

理由

本件につきさらに審究した結果、当裁判所も、控訴人の被控訴人嘉山俊子に対する請求は、原審認容の限度において正当としてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却すべく、また、被控訴人杉村勲に対する請求は全部失当として棄却すべきものと判断するものであり、その理由は、左記のとおり附加、訂正するほか、原判決の説示理由と同一であるから、ここにこれを引用する。

(一)  当審における控訴人本人尋問の結果中原審の認定に反する部分は、たやすく措信し難い。

(二)  被控訴人嘉山俊子の弁済の抗弁についての認定を「貸付番号3、9、10、11、15の各貸付金につき被控訴人俊子主張の金額の支払いを受けたこと、並びに貸付番号1の貸付金につき二万五、〇〇〇円、同4の貸付金につき五、〇〇〇円、同5の貸付金につき一万円、同6の貸付金につき七万五、〇〇〇円、同7の貸付金につき六万円、同8の貸付金につき四万五、〇〇〇円、同12の貸付金につき三万円、同16の貸付金につき五、〇〇〇円の各支払いを受けたことは、いずれも、当事者間に争いがない。」と訂正する。

(三)  原判決一八枚目表九行目の「属するものということはできない。」と「してみれば、」との間(民法一一〇条の趣旨の類推適用の主張に対する判断の部分)に、「右のごとく、控訴人の被控訴人俊子に対する本件各貸付けは、昭和四八年三月二四日から同年一二月二七日までの短期間に、二二回にわたりなされ、その合計は、五二〇万円の高額に及ぶものであり、また、貸付番号1、3、5ないし12、15ないし17、19ないし21の各貸付金につき、同年一二月一三日から翌昭和四九年四月二日までの間に、被控訴人俊子から控訴人に対し合計九二万二、五〇〇円が支払われたことは、控訴人において、当初から自認するところであるが、《証拠省略》によれば、右支払いは、本来、貸付元本に対する内入弁済としてではなく、元本に対する月々の利息として支払われたものであることが認められる。そして、本件の貸付元本額と控訴人の自認する月々の支払額とを対比すると、右利息の元本に対する割合いは、昭和四八年八月までの貸付金(貸付番号1、3、5ないし12)については一か月五分、その後の貸付金については、一か月六分(貸付番号15)、七分(貸付番号17、19)、一割(貸付番号20、21)と次第に高くなっていることが明らかである。右事実に、《証拠省略》を併せて考えれば、控訴人は、被控訴人俊子が借受けの際述べた個々の具体的事由を重視し、借受目的が被控訴人俊子一家の日常家事の範囲に属すると信じて本件各貸付けをしたというよりは、高利による貸付けにより自己の利益を得ることを目的として本件各貸付けをなしたものと認められる(《証拠省略》中右認定に反するかのごとき部分は、たやすく措信し難く、他に右認定を左右する証拠はない。)。

右のごとく、自己の利益を目的として夫婦の一方に対し日常家事の範囲を越えて多額の金員を高利で貸し付けた第三者が該貸付けをもって夫婦の日常家事の範囲内のものであると信じ、かつ、かく信ずるにつき正当な理由ありとして、夫婦の他方に対し民法一一〇条の規定の趣旨の類推適用により連帯責任を追及しうるためには、単に直接借受の衝に当った夫婦の一方の言を軽信したのみでは足りず、直接借受の衝に当らなかった他の配偶者が当該借受行為を容認するか又は第三者が夫婦の日常家事の範囲内の行為であると信ずるにつき右配偶者も原因を与えるなど特別の事情が存することを要するものというべきところ、本件においては、右特別事情の存在を肯認するに足る証拠はなく、却って、前記引用に係る原審認定のとおり、被控訴人勲は、本件借受期間中を通じ、被控訴人俊子が本件各借受けをしていたことを全く知らず、また、同被控訴人は、本件各借受金の殆んどを、被控訴人勲に秘して久田淑から高利で借受けていた金員の利息の支払いに充てていたのである。」と挿入する。

よって、原判決は正当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡部吉隆 裁判官 浅香恒久 裁判官蕪山厳は病気のため署名押印することができない。裁判長裁判官 渡部吉隆)

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